化学物質リスクアセスメント

化学物質リスクアセスメントとは

労働安全衛生法の見直しにより、各企業が避けては通れなくなった化学物質リスクアセスメントについて、作業環境測定を長期にわたり各社様で測定を実施させていただいてきた東海テクノでは、その経験を活かしてリスクアセスメントの進め方、化学物質濃度測定、リスク低減措置及び維持管理までの一貫した対応とご提案を提供させていただきます。

化学物質リスクアセスメントの目的

労働安全衛生法の見直しにより各種企業では、職場で使用する化学物質の管理を自社で行うことが義務付けられました。

そのため、各社では、

①職場で使用している化学物質が持つ有害性を見つけ出すこと

②労働者への健康障害が生じる恐れの程度を見積もること

③リスクを低減し、対策を行うこと

が求められることとなり、化学物質リスクアセスメントを実施することが必要となりました。

化学物質リスクアセスメントを実施する主な目的は下記の通りです。

①化学物質の使用に伴う事故や健康被害を予防し、従業員や顧客、地域社会の安全と健康を確保すること

②化学物質の排出や廃棄による環境汚染を防止し、持続可能な社会の実現に貢献すること

③職場の構成員(経営トップ、各級の管理者、現場の作業者等)が参加することで、事業場の安全衛生管理を組織的、継続的に実施していくこと

化学物質リスクアセスメントの効果

化学物質リスクアセスメントを実施する効果としては、以下のことが考えられます。

①リスクの内容や程度を事業場で共有できる

②化学物質の潜在的なリスクを早期発見できる

③リスク低減対策の優先順位を明確にできる

④作業手順等を見直すことで、職場の安全衛生の向上やコスト削減につながる

⑤リスクアセスメントの結果を作業者の安全衛生教育等に活用できる

化学物質リスクアセスメントが法改正で義務化(2023年4月1日施行)

かつての労災防止策は災害発生後にその原因調査と再発防止策を確立するものでしたが、その方法では潜在的なリスクは見落とされやすい問題がありました。さらに近年では技術の進展によって様々な機械設備や化学物質が導入され、事業場における危険性・有害性も多様化しつつあります。

そのため安全衛生対策の見直しによってリスクアセスメントが導入されることとなります。2014年6月、労働安全衛生法が改正され、SDS(安全データシート)交付対象である640物質(現在674物質)のリスクアセスメントの実施が義務化されました。この時点ではリスクの低減対策については努力義務とされていましたが、2022年さらに労働安全衛生法が改正されました。ここで労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置についても義務化されました。(2023年4月1日施行)

罰則はありませんが、実施すべき要件に該当する場合に実施していなければ法律違反になり、労働基準監督署の行政指導の対象となります。

化学物質リスクアセスメント3つの対象

化学物質リスクアセスメントには、大きく分けて3つの対象となる項目、「リスク」「化学物質」「事業場」が考えられます。それぞれの項目について説明していきます。

リスク

化学物質がもたらすリスクには、人の健康障害や環境汚染、爆発や引火等さまざまなものがあります。このうち、リスクアセスメントの対象となるのは以下の2つです。

①工場や職場等の事業場における作業者への健康リスク(化学物質の“有害性”に基づくリスク)

②設備等の発火や引火、またそれらに伴う爆発や火災のリスク(化学物質の“危険性”に基づくリスク)。

なお、法令等では、「危険性又は有害性の調査」を行うことが義務付けられていますが、危険性と有害性どちらかに絞れば良いわけではありません。くれぐれも対象となるすべてのリスクについて、リスクアセスメントを実施しなければならないことにご注意ください。

化学物質

化学物質:労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付義務対象物質は、2024年4月1日現在、896物質が対象です。

事業場

業種、事業場の規模に関わらず、SDS交付義務の対象となる化学物質の製造・取扱いをおこなうすべての事業場に、リスクアセスメントの実施が義務付けられています。

化学物質とは無関係と思われる企業も対象となるので注意が必要です。対象となるのは製造業や建設業だけではなく、清掃業、卸売・小売業、外食産業、医療・福祉業等、多岐に渡ります。化学物質を含む製品が使用され、労災を引き起こす危険性をはらんでいる事業場には、リスクアセスメント実施の義務があります。

リスクアセスメントの実施時期・実施体制

化学物質リスクアセスメントを実施する時期や実施する体制については下記のように進めて行くことが望まれます。

実施する時期

リスクアセスメントの実施時期は、労働安全衛生規則34条の2の7で以下のように定められています。

①対象物を原材料として新規に採用したり、変更したりするとき

②対象物の製造又は取り扱い業務の作業方法や手順を新規に採用したり、変更したりするとき

③上記以外で対象物による危険性、有害性に変化が生じたり、生じるおそれがあったりするとき

 ※新たな危険有害性の情報が、SDSで提供された場合など

また、厚生労働省が公表する「化学物質等による危険性または有害性等の調査等に関する指針」では下記の時期にリスクアセスメントを行うことを努力義務とされています。

①労働災害が発生し、過去のリスクアセスメントに問題があるとき

②化学物質の危険有害性について、新たな知見を得たとき

③過去のリスクアセスメント実施以降、機械設備の経年劣化や、労働者の入れ替わりに伴う知識経験の変化、労働安全衛生に関して新たな知見の収集等があったとき

④過去にリスクアセスメントを実施したことがないとき

実施するための体制

事業主は、リスクアセスメントの実施体制を下記の役割で実施します。

・総括安全衛生管理者:リスクアセスメント等の実施の統括管理を行う

・安全衛生管理者:リスクアセスメント等の実施の管理を行う

・化学物質管理者:リスクアセスメント等の技術的業務を実施する

・専門的知識を有する者:対象となる化学物質・機械設備のリスクアセスメントへの参加

・外部の専門家:労働衛生コンサルタント・作業環境測定士等より詳細にリスクアセスメントを進めるときの技術的な助言を得るために活用が望ましい

リスクアセスメントの実施体制として重要なポイントは、リスクアセスメント等の実施を行う際に労働者に参加してもらうことです。事業場内のリスクを理解しているのは、現場で実際に業務を行っている労働者の方々だからです。また、外部の専門家を活用することでより詳細なリスクアセスメントの実施体制が構築できます。

化学物質リスクアセスメントのやり方・手順

化学物質リスクアセスメントは、大きくは次に示す5つのステップで進めます。事業者は事業場内の担当者にそれぞれの役割を担わせて、リスクアセスメントを実施します。

STEP1 化学物質等による危険性または有害性の特定

化学物質等による危険性又は有害性の特定を行うために必要な書類を準備します。書類としては、原材料の化学物質等安全データシート(SDS)や作業手順書、作業環境測定結果、過去の災害事例等です。これら書類を元にどのような危険性・有害性があるかを調査・検討します。化学物質等による危険性又は有害性は、作業標準等に基づき、特定するために必要な単位で作業を洗い出した上で、「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」で示されている危険性又は有害性の分類等に則して、各作業ごとに特定します。

STEP2 リスクの見積り

危険性については、危険を及ぼし健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)と当該危険の程度(重篤度)により、リスクを見積もります。有害性については、化学物質等にさらされる程度(ばく露の程度)と有害性の程度によりリスクを見積もります。リスクの見積もりは実測値による手法、工学的推計の他、簡易リスクアセスメントツールによるばく露濃度の推定があります。「職場のあんぜんサイト」で公開されている簡易リスクアセスメントツールの代表的なものには、厚生労働省版コントロールバンディング、クリエイトシンプル(CREATE-SIMPLE)などがあげられます。

クリエイトシンプルを用いた方法

一般的なリスクアセスメントは、専門的な知識や手法、詳細なデータが必要となり、時間や費用がかかることが予想されます。クリエイトシンプルは、化学物質や作業環境のリスク管理を手軽に行う手法として広く採用されている化学物質リスクアセスメントツールです。その大きなメリットの一つは、専門的な知識がない人でもリスクアセスメントの準備に取り組むことができる点です。さらに、この手法を利用する場合、具体的な化学物質の濃度測定やばく露限界値の詳細な測定が不要となるため、迅速かつ効果的にリスク管理を進めることが可能となります。クリエイトシンプルは、使用する化学物質の情報、作業の種類、使用量、作業条件などからリスクを推定する方法で、有害性の程度はばく露限界値を採用しています。詳細に言うと作業者のばく露濃度は、物理的特性や取扱量だけではなく、含有率や換気状況、作業頻度なども考慮して推定されます。

クリエイトシンプルを用いたリスクアセスメントの進め方については、下記リンクでご確認ください。

コントロールバンディングを用いた方法

コントロールバンディングはリスクアセスメントを進める手法の1つとして、クリエイトシンプル同様に濃度測定を実施しなくてもSDS情報や取扱量、揮発性や飛散性を把握することでリスクの見積もりが可能であるため、広く利用されています。

コントロールバンディングを用いたリスクアセスメントの進め方については、下記リンクでご確認ください。

STEP3 リスク低減措置の検討

リスクアセスメントの結果に基づき、労働者の危険または健康障害を防止するための措置の内容を検討します。検討に際しては次の優先順位で検討を進めます。

1) 代替物等の使用
2) 発生源の密閉化、排気装置
3) 作業方法の見直し
4) 保護具の着用

STEP4 リスク低減措置の実施

リスク低減措置を検討した中でリスクが高いものを優先的に実施していきます。リスクアセスメント対象物については、労働者のばく露を最小限度とすること、および濃度基準値が設定された物質については濃度基準値以下とする措置を実施する必要があります。また、それ以外の検討したリスク低減措置についても速やかに実施するよう努める必要があります。

STEP5 リスクアセスメント結果等の労働者への周知

リスクアセスメントを行ったときは、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間保存するとともに当該事項についてリスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者に周知させる必要があります。周知する内容及び周知の方法は下記のとおりです。

・周知する内容

  1. リスクアセスメントの対象物の名前
  2. リスクアセスメントの対象となる業務内容
  3. リスクアセスメントの結果(特定した危険性または有害性、見積もったリスク)
  4. 実施するリスク低減措置の内容 

・周知する方法

  1. 見やすい場所に掲示または備え付ける
  2. 書面を作業者に交付する
  3. 磁気ディスクなどの記録媒体に記録し、内容を常時確認できる機器を設置する

東海テクノの強み・サポート体制

作業環境測定をはじめ、リスクアセスメントの構築サポート事業を行う株式会社 東海テクノ(本社:三重県四日市市)では、化学物質管理者の選任要件を満たすための厚生労働大臣が示す内容に従った専門的講習を随時開催しています。労働衛生コンサルタントの資格保有者が講師を勤め、長年に渡る経験、また専門的な視点から化学物質管理者に必要となる要件を分かりやすくお伝えします。

化学物質管理者講習

保護具着用管理責任者講習

また、改正法の特徴的な措置として作業環境の悪化、労働災害等の対応として作業環境管理専門家(外部の人)、化学物質管理専門家(外部の人が望ましい)の選任があります。当社では従来業務である作業環境測定の実施及び職場改善の提案に加えて、新たなサービスを始めることを決定致しました。事前に作業環境管理専門家や化学物質管理専門家の選任を行い、更には定期的に外部監査を行うなど、有事に備えての体制作りを支援させていただきます。

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よくある質問

個人ばく露測定について教えてください。

有害性リスクは、「ばく露量」と「有害性の大きさ」から、定量的手法を用いてリスクの大きさ(有害性リスク)を把握することができます。最も代表的な方法とされているのが「個人ばく露測定」による結果を用いることとされています。作業者の呼吸域における化学物質の濃度を測定(ばく露量)し、その測定濃度と安全性の指標(有害性の大きさ)である「ばく露限界値」と比較して有害性リスクを評価します。
ばく露限界値は、労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で化学物質にばく露する場合に、当該化学物質の平均ばく露濃度がこの数値以下であれば、ほとんど全ての労働者に健康上の悪い影響が見られないと考えられる濃度とされています。

ホームセンターで購入した化学品に対象物質が含まれていました。リスクアセスメントは必要でしょうか?

リスクアセスメントは、ラベル表示又はSDS通知対象物に実施義務があります。一般消費者の生活の用に供されるための製品については、ラベル表示・SDS交付の義務がないのでリスクアセスメントの実施義務はありません。ただし、リスクアセスメント対象物以外の物質についてもばく露される濃度を最小限とする努力義務があるので、必要に応じてリスクアセスメントを実施するように努めてください。

リスクアセスメントは1度行うだけでいいですか?

①対象物を原材料などとして新規に採用したり、変更したりするとき

②対象物を製造し、または取り扱う業務の作業の方法や作業手順を新規に採用したり変更したりするとき

③SDSが改定され対象物による危険性または有害性などについて変化が生じたり、生じるおそれがあったりするときに法律上に実施義務があります。

屋外での作業もリスクアセスメントは必要ですか?

リスクアセスメント対象物質が含まれる物質を製造・取り扱う作業であれば必要です。

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