「工場排水の適正管理|環境保護と法令遵守のための基礎知識」
工場排水は水質汚濁防止法により規制されており、pH、BOD、COD、重金属など多くの分析項目が指定されています。本コラムでは、排水が環境に与える影響や、適切な処理方法について、わかりやすく解説します。
工場排水とは?定義と環境への影響
工場排水とは、製造工程や洗浄作業などで発生する水を指し、油分、重金属、化学物質、有機物など多様な汚染物質を含む可能性があります。これらが適切に処理されずに自然界へ流出すると、河川や海、地下水の水質が悪化し、生態系や私たちの生活環境に深刻な影響を及ぼすことがあります。 例として排水中の有害物質が水源に混入した場合、農業用水や飲料水の品質が損なわれ、地域住民の健康被害や生活環境への悪影響が引き起こされる恐れがあります。実際に、過去には工場からの未処理排水が原因で水道水源が汚染され、上水道の使用制限がされた事例があります。
このような事態を防ぐためには、工場排水を適切に処理し、環境への負荷を最小限に抑えることが不可欠です。排水処理設備の導入と適切な運用は、企業の社会的責任であり、地域社会との共生にもつながります。 また、工場排水には厳しい法規制が設けられており、事業者には環境基準を遵守する責任が課せられています。
次章では、これらの法規制の中でも代表的な「水質汚濁防止法と工場排水の規制」について詳しく解説していきます。
水質汚濁防止法と工場排水の規制
工場や事業場から排出される工場排水は、水質汚濁防止法により厳格に規制されています。この法律は、1950年代後半から高度経済成長期にかけて全国で相次いだ水質汚染、公害問題を受けて、1970年に制定されました。日本における四大公害病の一つである水俣湾での水俣病など、工場排水による甚大な健康被害と環境破壊が社会問題となったことが背景にあります。水質汚濁防止法は、こうした惨事の再発を防ぎ、公共用水域の水質保全と国民の健康、生活環境の保護を目的としています。
規制の対象となるのは、製造業、化学工業、食品工業、金属加工業など、多様な業種の事業場です。工場排水に対しては、次の2つの観点から分析項目が設定されています。
生活環境項目15項目
水の汚染状態を示す項目
例:pH、BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質量)、ノルマルヘキサン抽出物質(油脂類)等
有害物質27項目
人の健康に係る被害を生ずる恐れのある物質
例:鉛、六価クロム、ヒ素、カドミウム、PCB(ポリ塩化ビフェニル)等
また排出量に応じて、年間の測定回数も定められています。
排出水量(1日あたり) | 測定回数(年) |
50m3未満 | 1回 |
50m3以上500m3未満 | 2回 |
500m3以上 | 4回 |
排出量が多い事業場ほど、測定頻度も高く義務付けられており、排水の水質を安定的に維持することが求められています。
さらに、単に排水中の濃度を規制するだけでなく、地域ごとの汚濁負荷を抑制するために「総量規制」も導入されています。例えば、伊勢湾地域では1979年から「伊勢湾総量規制」が始まり、特にCOD(化学的酸素要求量)の総量削減に重点を置いた水質改善が進められています。
水質汚濁防止法の遵守は、単なる法令対応ではなく、企業の社会的責任(CSR)の観点からも極めて重要です。違反した場合には、行政処分、事業停止、刑事罰など厳しいペナルティが科される可能性があり、環境保護と企業活動の両立のためにも、適切な排水管理が不可欠です。
参考URL:https://www.env.go.jp/hourei/05/000136.html
排水中の汚染物質と目安となる指標(BOD・COD)
工場排水が環境に与える影響を最小限に留め、適正に管理するためには、まず排水の汚れ具合を正確に把握する必要があります。前章の分析項目にも記載した通り、汚れの目安となる数値として「BOD(生物化学的酸素要求量)」や「COD(化学的酸素要求量)」があります。これらは、水中の有機物汚染の程度を表す代表的な指標であり、値が高いほど水質に悪影響を及ぼす恐れが大きいことを意味します。
当社では、食品系工場排水や生活排水に含まれる有機物量の目安の一例として、以下のような食品に対しBOD分析を行いました。
試料 | BOD濃度(mg/L) |
味噌汁(41kcal/100mL) | 30,000 |
缶ビール(42kcal/100mL) | 68,000 |
透明な清涼飲料水(24kcal/100mL) | 44,000 |
※上水道水源として、BOD3mg/L以上は一般の浄水処理方法では処理が困難となるとされています。
この結果からもわかるように、たとえ透明に見える清涼飲料水でも、非常に高いBOD値を示す場合があります。見た目がきれいでも、有機物による汚染の程度は予想以上に高いことがあるため、排水管理では単なる外観だけでなく、成分の正確な測定が重要です。
BOD・CODの分析方法について
ここでは、排水管理を行うにあたり必要となる成分の測定のうち、BODおよびCODの分析方法について簡単にご紹介いたします。
BOD(生物化学的酸素要求量)
微生物が水中の有機物を分解する際に消費する酸素量を測定します。検体を一定期間(通常5日間)培養し、培養前後の溶存酸素量の減少からBOD値を算出します。有機物分解のしやすさを反映する指標です。
COD(化学的酸素要求量)
酸化剤(過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムなど)を用いて化学的に有機物を酸化し、消費された酸化剤の量から有機物量を推定します。生物分解されにくい有機物も対象となるため、BODよりも広範な汚れを評価できます。
このように、BODとCODはいずれも水質管理に欠かせない重要な指標なのです。
排水処理の主な方法とその特徴
工場排水を適切に管理することが、環境への負荷低減に直結することが分かりました。
ではその排水処理には、どういった種類があるのでしょうか。
排水処理は大きく「物理処理」「化学処理」「生物処理」に分けられます。物理処理はろ過や沈殿によって固形物を除去し、化学処理は薬剤を使って有害物質を中和・分解します。そして、生物処理では微生物の働きによって水中の有機物を分解・除去します。
このような手法を複合的に用いて工場排水に対して適切な処理を行うことで、水質汚濁を防ぎ、周辺の河川や地下水への悪影響を大きく軽減することが可能になります。
まとめ
工場排水は、油分や重金属、有機物など多様な汚染物質を含んでおり、適切に処理されなければ、河川や地下水に深刻な影響を及ぼします。そのため、排水処理設備を整備し、物理処理・化学処理・生物処理等の適切な対策を講じることが重要です。
さらに、工場排水は水質汚濁防止法によって厳しく規制されており、事業者には排水基準の遵守だけでなく、定期的な排水分析による水質管理が求められています。法律を正しく理解し、適切な排水処理と水質モニタリングを行うことが、企業の社会的責任(CSR)であり、将来にわたって地域環境を守るために不可欠です。
当社は1972年に創業以来半世紀にわたり、環境分析をはじめ様々な分析に携わってきました。排水処理に関する水質分析や工場における環境測定および計器メンテナンス業務、各種規制対応のサポート等も行っています。過去には、排水処理の際に使用する凝集剤の添加条件を検討するジャーテスト実施の実績もあります。工場排水の管理や水質分析についてお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。専門スタッフが、豊富な経験と確かな技術でサポートいたします。